夜明けの犬

枝垂れた悪魔が満開の夜 蜂蜜とバーボンで脳味噌が鳴く ひび割れを塞ぐワセリンと真っ黒なジャム 雨は打楽器 飴はタトゥー 夜に座って夜を舐める 血塗れの夜 詩塗れの夜 独り言はふたりごとになる 一瞬だけ夜は明ける 一瞬だけ世は開ける

昨日犬

過去は昨日に置いてきた 過去は昨日に返した 過去は過去に生きている 昨日は異能 一昨日は男湯 書けないエッセイ 堕ちない衛星 壊れた観察 焼かれたアルバム 名前のない街 名前のない僕 一生野良犬 一緒の野良犬 忘れてしまおう 忘れてしまおう 今日だけ燃や…

独り言犬

比喩を捨てよう 名を捨てよう 過去を捨てよう 街を捨てよう 身体を捨てよう 心を捨てよう ハサミを捨てよう 爪切り捨てよう 林檎を捨てよう 買われた魂は何処にある? あなたが代わりに飼うんじゃないの? 痛み分けの魂 生き別れの魂 そこのお巡りさん 怖い…

今日犬

酸素が逃げ出した部屋 薔薇の蔦の枕 絶対零度のホット珈琲 卵白だけの地球 未来で眠る遺影 煉瓦に溶けた知性 板チョコに砕けた野生 いつでも見えてる妖精 口笛を吹く惑星 蛇口を捻れば今日は流れる 今日という水が 今日という血が 時の唄が雨戸から流れる 黄…

今の犬

今は消えかけ 今は生煮え 今は未完成 今は未公開 今は見放題 今吠えろ 今叩け 今喰らえ 今鳴らせ 今歌え 今生きろ 全部歌われている今 全部書かれている今 そんな今に生きている今 瞬間映した万華鏡 辿り着けない詩の構造 憂鬱な今 憂鬱は今 憂鬱は生命の滾…

昨夜犬

死にかけ寄った 死を捲った 死を読んだ 死を齧った 死を掻き毟った 死を握った 死と話し合った 死は泣かなかった 死は流れていた 死は回っていた 死は呼んでいた 死は住んでいた 死はここにあった 死は一緒だった 死の目を見つめた 死は戻ってきた

土手の犬

からす麦が揺れる川辺で 犬が時間に溺れていた 石は酒に溺れていた 脳味噌はこんがり焼けていた 猛毒はあなたを変えられなかった 猛毒はあなたを帰さなかった 退屈と突進が混じり合う夕暮れ そそり立つ草木と 吠え出す虹 夜はまだ眠っている 朝はまだ焦がれ…

犬声

声は全身 声は分身 声は小人 声は操縦者 声は暖炉 声は海辺 声は山頂 声は祈り 声は怒り 声はひとり 声は洞窟 声は窮屈 声は退屈 声は盲目 声は瞬間 声は無限 声は裂け目 声はラクガキ 声は警告 声は鏡 声は映画 声はオムライス

卵犬

木製の卵 聖性の卵 虹彩の目玉焼き 油絵のスクランブルエッグ 饂飩の月光旅行 いつまでも血は漂白されない いつまでもわたしについてくる いつまで血の跡がついた扉が追ってくる いつまでも小説の動物が追ってくる いつまでも空白の惑星が追ってくる

年齢犬

獣の臭いと 野心とオレンジのインク 心臓にいれたジョーカーのタトゥー 42度のシャワーでも 1000年に一度の台風でも 流せない 毎日が誕生日 眼球が開く日曜日 いつでも歳は取れないが いつでも若くなれる動物達 シャキシャキも クタクタも コトコトも 全部身…

渇き犬

新しい昨日と古い明日 いつもどおりの7時 砂嵐とオレンジジュース 霞む花びら 涙目の喉 嗄れた時間 空きっ腹に文字 空振る熱 妬み 僻み 歪み 年を重ねた紙の上 心臓移植された言葉達 そこは生きていることの果実園 流し台のグリーンチャイルド 心の皮を剥い…

今日の犬

たとえ数日前でも過去を無理やりほじくり返して書こうとするのは不自然でわたしには難しいことのような気がしてきた。書けることをただ書こう。 昨日は昼間から夜にかけてずっと眠かった。ケンタッキーでローストチキンサンドを食べて、音楽を聴いたり、珍し…

自然犬

英語と肉球を翻訳する朝 バターの香りと度胸あるペンギンに 「おはようございます」 全粒粉パンは冷凍庫に整列している そんな朝には五穀米とふきのとうと味噌汁 糸口はない 瞼を濡らす雨はない 名も知らぬ花が咲いている 珈琲を今日も淹れる 晴れた日を思い…

失語犬

言葉をわすれてしまいそう 気づいたらもうわすれかけている 言葉はどこにも見当たらない 「失くした言葉の紛失届はもう出されましたか?」 言葉銀行の職員がそう問いかける 地球のどこに言葉がある? 寒い国にある? 渇いた国にある? わたしの住む場所にあ…

眠り犬

寂しさで眠い 身体が座席に溶けていく 魂が時間の霊魂になる 昼に寝た 夜に寝た 朝からお酒を飲んでしまいそう 言葉をなくした叫びが遊びに来た 手紙を矢のように撃ち放したい 夢の中でも 過去の中でも 隣の人の顔がわからない 白いブレザーとジャケットは覚…

坂口恭平さんへ

わたしはずっと坂口恭平さんに素直に、誠実なやり方で謝りたいと思っていました。嘘をついてごめんなさい。ただ文章を書くことだけはずっと諦めたくありません。長くなるとは思いますが、ここに素直な気持ちを書きます。この文章を書くことは苦しいですが、…

夜と朝の犬

明日が来る前に開きたい扉を前にして赤信号 暮れかけの空の中 表情筋の深呼吸 唇が眠る夜 耳が冴える夜 苦い薬は腹の底で調合される 逸脱の詰め放題 紺のビニールははちきれそう かき揚げ蕎麦の跳ねたつゆで 壊れたブラックホール 孤独と傷を分け合うホワイ…

狂熱犬

文章が少しずつ書けるようになってきました。できるだけ空っぽでいることで文章が書けるようになる気がしました。誰かのようになりたい、誰かのように書きたいという思いから離れられたら、文章が書けるようになった気がした。誰の言葉も誰の考えも今はいら…

言葉犬

言葉を忘れて 言葉を書きたい 言葉は貯めておくものじゃない 言葉は脱ぐためのものだ 言葉を剥ぎ取って 言葉を書きたい 言葉の道路なんてないから 言葉の乗り物はいらない 言葉の空があるなら 言葉の星があるなら 言葉の海があるなら 言葉の大地があるなら …

子守唄犬

海に落ちた雨はカエルの鳴き声 雷はポメラニアンの武者震い 砂嵐はゴダールの歌声 百合の花は白いワンピース 花の中にあの人が見える カーキのカーディガン 赤いニット帽 ポケットのついたTシャツ 心理学のテキスト 水溶性の欲望 冥王星のザクロ 土星のデヴ…

八方塞がり犬

ちゃんと言いたいことがある 伝わるかどうか別にして 思っていることの全て 今日があなたの一生 明日もあなたの一生 生まれ変わったことに気づかないだけ 今夜宇宙を卒業します その後は何処にも行く宛がない お説教がファストフードで 愛してるがオーダーメ…

握手犬

住んでいる街と仲良くなれる気がしなかった コンビニのおにぎりと仲良くなれる気がしなかった 水筒にいれたお茶と仲良くなれる気がしなかった リポビタンDには喧嘩腰だった みんなとはさっき和解した 今までごめん 目を合わせらなくてごめん 出会ってくれて…

我が名は犬

誰かの言葉が赤信号になりは 誰かの言葉が行き止まりになる 誰かの言葉が金縛りになる 誰かの言葉が関節技になる 誰かの言葉で動けなくなる 本の言葉 メールの言葉 SNSの言葉 必要なことばかり だけどそれで 動けなくなることばかり 今は他人じゃない言葉 僕…

新しい犬

沈黙と抑揚を乗せて 雨の日の観覧車は回る 全てのことが今から始まる 眠りでは泳げない夢を泳ぐ 欠けた賽の目の終わらない回転 鳴り止まない心臓 ソファーはひっくり返る 卓袱台は壊れ損ねる 天井は全力疾走する ピザとオリーブは空に舞う 饂飩は天の川にな…

白い犬

「空っぽな詩集のままでいい」 「ガラガラのライブハウスのままでいい」 「友達には無理に声をかけない」 そう言いながら目覚めた白い犬はカラスの溜まり場から去っていった その夜の犬は自家製の潤滑油で動いていた 自家製の潤滑油で回っていた リュックの…

下北犬

今日はいい天気 今日は暖かい 今日は明るい人生 公園とコンビニの横を経由して緑の街へ 通りには魚と積み木とTシャツ達 古い映画館と中華料理屋の行列 人生というデスマッチの模型 サングラス カセットテープ ビンテージシャツ 古本 飲まなかったビール 黒い…

狡猾な枯渇

流れない 生まれない 捕まらない 朝も 昼も 夜も 空っぽなまま生きていける 隠れ家の排泄はとまる 今夜の暴動は終わる 素直な欲望 気まぐれな希望 やさぐれた野望 苔の生えた腹のなかの自然 水脈が枯れても 手動で回る水車 風が止んでも 動き続ける風車 枯れ…

駄作論

死ぬのがわかっているのに 生きているわたしは これからは無駄なことだけをやる 何も変えられないものをつくる 無理やり灯りを灯さず 見えないままで その日 その日を振り付ける 無力な手足を振り続ける どこにも行けないまま 地球の丸さを知る わたしの両目…

眠れない犬

眠れない脳の温度 マーブル色の夜の部屋 本の雪崩とと愚れた寝間着達 毛布に包まり スヌーピーのランタンを灯す 仕留められない明日に飛びつく アルマジロがバンジョーを弾いている 冬と春の間で血のケトルが沸騰する 同じ夜のなさに怯え 同じような夜に這い…

視聴会犬

白黒映画とメルヘンが空の梯子から降りてくる 二匹の星と目が合う葡萄のステージで 秘密の箱の鍵を解いて 薔薇の穴の名を叫ぶ 土の匂いに溢れ出す微生物 死を恐れる欲望が目を覚ます 地平線では昼間の太陽が踊りだす 滑らかな涙で錆びた車輪が回りだす 梶の…