鬱犬

 

書くこと

 

 書くこと、わたしとって一番やるのが怖いこと。読む人にとっても、書いた自分にとっても何の感動も刺激もない退屈な文章を書いてしまうことが怖い。

 

  書くこと、わたしの一番やりたいこと。文章の出来上がりどころか、次に出てくる文章さえ見えなくても、どうにか自分の中から言葉を引っ張りだしてひとつの文章を書き上げることに挑戦したい。今の私から文章がスラスラと流れ出ることはない。エネルギーが満ちている感覚もない。それどころか言葉が枯れてしまったような感覚に囚われている。それでもそんな状態そのものを素直に記録するように書いてみたい。

 

 

珈琲と文章

 

 文章を久々に書いてみる。そんな勿体ぶった言い方して何を偉そうに、と素直に思う。書き続けることが大切だとわかっているからこそ尚更。何故書けなくなってしまうのだろうか。ずっとずっと書けない、書けないということを書き続けてる気もする。小説のコードも詩の回路も一切働かない。日記に書くような出来事や変化もない。それでも生ものな文章を書いてみたい。抜け道は見当たらないけれど、少しでも呼吸を落ち着つけたい。アウトプットというより吐き出し。何も浮かばない。書く身体になりきってないそんな風に思う。それでも書いて大失敗したい。実らなかった過去に生きていたくなんかない。過去に生きてなんかいたくない。今書けることを書き続けたい。ピカソの真似をして、坂口恭平の真似をしてたくさんつくろう。書いて言葉を先に進ませよう。違う色を足していく。同じ色でもいいからどんどん足していく。どんな季節も書かなければ忘れていく。

 

 そんな日でも珈琲を飲むと元気になる。自分の好きな豆を挽いて、台所を片付けて、お湯を沸かして、冷まして、珈琲を淹れる。それを飲んだらどうにか正気に戻れる。珈琲の液体が何処かへの入り口をつくるような。飲んだ珈琲がこの世と自分を繋ぎとめる接着剤になるような。珈琲にはそんな効果がある。

 

 

 

昨日犬

過去は昨日に置いてきた

過去は昨日に返した

過去は過去に生きている

昨日は異能

一昨日は男湯

書けないエッセイ

堕ちない衛星

壊れた観察

焼かれたアルバム

名前のない街

名前のない僕

一生野良犬

一緒の野良犬

忘れてしまおう

忘れてしまおう

今日だけ燃やそう

今日だけ燃やそう

独り言犬

比喩を捨てよう

名を捨てよう

過去を捨てよう

街を捨てよう

身体を捨てよう

心を捨てよう

ハサミを捨てよう

爪切り捨てよう

林檎を捨てよう

買われた魂は何処にある?

あなたが代わりに飼うんじゃないの?

痛み分けの魂

生き別れの魂

そこのお巡りさん

怖い顔したお巡りさん

わたしにも職務質問をしてくれ

ひとりにしないでおくれ

無視しないでくれ

無視しないでくれ

無視されなかったら泣いてしまうよ

 

今日犬

酸素が逃げ出した部屋

薔薇の蔦の枕

絶対零度のホット珈琲

卵白だけの地球

未来で眠る遺影

煉瓦に溶けた知性

板チョコに砕けた野生

いつでも見えてる妖精

口笛を吹く惑星

蛇口を捻れば今日は流れる

今日という水が

今日という血が

時の唄が雨戸から流れる

黄昏が空を駆け抜ける頃

もう一度今日をはじめよう

今日から生きよう

今日だけ生きよう

今日を生きよう

今の犬

今は消えかけ

今は生煮え

今は未完成

今は未公開

今は見放題

今吠えろ

今叩け

今喰らえ

今鳴らせ

今歌え

今生きろ

全部歌われている今

全部書かれている今

そんな今に生きている今

瞬間映した万華鏡

辿り着けない詩の構造

憂鬱な今

憂鬱は今

憂鬱は生命の滾り

憂鬱は虹の迸り

憂鬱は太陽の親友

あの人はあの人

あの人は今の人

半分死んでいるような

半分生きているような

そんな今