昨日犬

過去は昨日に置いてきた

過去は昨日に返した

過去は過去に生きている

昨日は異能

一昨日は男湯

書けないエッセイ

堕ちない衛星

壊れた観察

焼かれたアルバム

名前のない街

名前のない僕

一生野良犬

一緒の野良犬

忘れてしまおう

忘れてしまおう

今日だけ燃やそう

今日だけ燃やそう

独り言犬

比喩を捨てよう

名を捨てよう

過去を捨てよう

街を捨てよう

身体を捨てよう

心を捨てよう

ハサミを捨てよう

爪切り捨てよう

林檎を捨てよう

買われた魂は何処にある?

あなたが代わりに飼うんじゃないの?

痛み分けの魂

生き別れの魂

そこのお巡りさん

怖い顔したお巡りさん

わたしにも職務質問をしてくれ

ひとりにしないでおくれ

無視しないでくれ

無視しないでくれ

無視されなかったら泣いてしまうよ

 

今日犬

酸素が逃げ出した部屋

薔薇の蔦の枕

絶対零度のホット珈琲

卵白だけの地球

未来で眠る遺影

煉瓦に溶けた知性

板チョコに砕けた野生

いつでも見えてる妖精

口笛を吹く惑星

蛇口を捻れば今日は流れる

今日という水が

今日という血が

時の唄が雨戸から流れる

黄昏が空を駆け抜ける頃

もう一度今日をはじめよう

今日から生きよう

今日だけ生きよう

今日を生きよう

今の犬

今は消えかけ

今は生煮え

今は未完成

今は未公開

今は見放題

今吠えろ

今叩け

今喰らえ

今鳴らせ

今歌え

今生きろ

全部歌われている今

全部書かれている今

そんな今に生きている今

瞬間映した万華鏡

辿り着けない詩の構造

憂鬱な今

憂鬱は今

憂鬱は生命の滾り

憂鬱は虹の迸り

憂鬱は太陽の親友

あの人はあの人

あの人は今の人

半分死んでいるような

半分生きているような

そんな今

昨夜犬

死にかけ寄った

死を捲った

死を読んだ

死を齧った

死を掻き毟った

死を握った

死と話し合った

死は泣かなかった

死は流れていた

死は回っていた

死は呼んでいた

死は住んでいた

死はここにあった

死は一緒だった

死の目を見つめた

死は戻ってきた

 

 

 

 

土手の犬

からす麦が揺れる川辺で

犬が時間に溺れていた

石は酒に溺れていた

脳味噌はこんがり焼けていた

猛毒はあなたを変えられなかった

猛毒はあなたを帰さなかった

退屈と突進が混じり合う夕暮れ

そそり立つ草木と

吠え出す虹

夜はまだ眠っている

朝はまだ焦がれてる

明日はまだ飛び跳ねている