昨夜犬

死にかけ寄った 死を捲った 死を読んだ 死を齧った 死を掻き毟った 死を握った 死と話し合った 死は泣かなかった 死は流れていた 死は回っていた 死は呼んでいた 死は住んでいた 死はここにあった 死は一緒だった 死の目を見つめた 死は戻ってきた

犬声

声は全身 声は分身 声は小人 声は操縦者 声は暖炉 声は海辺 声は山頂 声は祈り 声は怒り 声はひとり 声は洞窟 声は窮屈 声は退屈 声は盲目 声は瞬間 声は無限 声は裂け目 声はラクガキ 声は警告 声は鏡 声は映画 声はオムライス

卵犬

木製の卵 聖性の卵 虹彩の目玉焼き 油絵のスクランブルエッグ 饂飩の月光旅行 いつまでも血は漂白されない いつまでもわたしについてくる いつまで血の跡がついた扉が追ってくる いつまでも小説の動物が追ってくる いつまでも空白の惑星が追ってくる

年齢犬

獣の臭いと 野心とオレンジのインク 心臓にいれたジョーカーのタトゥー 42度のシャワーでも 1000年に一度の台風でも 流せない 毎日が誕生日 眼球が開く日曜日 いつでも歳は取れないが いつでも若くなれる動物達 シャキシャキも クタクタも コトコトも 全部身…

渇き犬

新しい昨日と古い明日 いつもどおりの7時 砂嵐とオレンジジュース 霞む花びら 涙目の喉 嗄れた時間 空きっ腹に文字 空振る熱 妬み 僻み 歪み 年を重ねた紙の上 心臓移植された言葉達 そこは生きていることの果実園 流し台のグリーンチャイルド 心の皮を剥い…

自然犬

英語と肉球を翻訳する朝 バターの香りと度胸あるペンギンに 「おはようございます」 全粒粉パンは冷凍庫に整列している そんな朝には五穀米とふきのとうと味噌汁 糸口はない 瞼を濡らす雨はない 名も知らぬ花が咲いている 珈琲を今日も淹れる 晴れた日を思い…

眠り犬

寂しさで眠い 身体が座席に溶けていく 魂が時間の霊魂になる 昼に寝た 夜に寝た 朝からお酒を飲んでしまいそう 言葉をなくした叫びが遊びに来た 手紙を矢のように撃ち放したい 夢の中でも 過去の中でも 隣の人の顔がわからない 白いブレザーとジャケットは覚…

言葉犬

言葉を忘れて 言葉を書きたい 言葉は貯めておくものじゃない 言葉は脱ぐためのものだ 言葉を剥ぎ取って 言葉を書きたい 言葉の道路なんてないから 言葉の乗り物はいらない 言葉の空があるなら 言葉の星があるなら 言葉の海があるなら 言葉の大地があるなら …

子守唄犬

海に落ちた雨はカエルの鳴き声 雷はポメラニアンの武者震い 砂嵐はゴダールの歌声 百合の花は白いワンピース 花の中にあの人が見える カーキのカーディガン 赤いニット帽 ポケットのついたTシャツ 心理学のテキスト 水溶性の欲望 冥王星のザクロ 土星のデヴ…

八方塞がり犬

ちゃんと言いたいことがある 伝わるかどうか別にして 思っていることの全て 今日があなたの一生 明日もあなたの一生 生まれ変わったことに気づかないだけ 今夜宇宙を卒業します その後は何処にも行く宛がない お説教がファストフードで 愛してるがオーダーメ…

握手犬

住んでいる街と仲良くなれる気がしなかった コンビニのおにぎりと仲良くなれる気がしなかった 水筒にいれたお茶と仲良くなれる気がしなかった リポビタンDには喧嘩腰だった みんなとはさっき和解した 今までごめん 目を合わせらなくてごめん 出会ってくれて…

我が名は犬

誰かの言葉が赤信号になりは 誰かの言葉が行き止まりになる 誰かの言葉が金縛りになる 誰かの言葉が関節技になる 誰かの言葉で動けなくなる 本の言葉 メールの言葉 SNSの言葉 必要なことばかり だけどそれで 動けなくなることばかり 今は他人じゃない言葉 僕…

新しい犬

沈黙と抑揚を乗せて 雨の日の観覧車は回る 全てのことが今から始まる 眠りでは泳げない夢を泳ぐ 欠けた賽の目の終わらない回転 鳴り止まない心臓 ソファーはひっくり返る 卓袱台は壊れ損ねる 天井は全力疾走する ピザとオリーブは空に舞う 饂飩は天の川にな…

白い犬

「空っぽな詩集のままでいい」 「ガラガラのライブハウスのままでいい」 「友達には無理に声をかけない」 そう言いながら目覚めた白い犬はカラスの溜まり場から去っていった その夜の犬は自家製の潤滑油で動いていた 自家製の潤滑油で回っていた リュックの…

下北犬

今日はいい天気 今日は暖かい 今日は明るい人生 公園とコンビニの横を経由して緑の街へ 通りには魚と積み木とTシャツ達 古い映画館と中華料理屋の行列 人生というデスマッチの模型 サングラス カセットテープ ビンテージシャツ 古本 飲まなかったビール 黒い…

狡猾な枯渇

流れない 生まれない 捕まらない 朝も 昼も 夜も 空っぽなまま生きていける 隠れ家の排泄はとまる 今夜の暴動は終わる 素直な欲望 気まぐれな希望 やさぐれた野望 苔の生えた腹のなかの自然 水脈が枯れても 手動で回る水車 風が止んでも 動き続ける風車 枯れ…

駄作論

死ぬのがわかっているのに 生きているわたしは これからは無駄なことだけをやる 何も変えられないものをつくる 無理やり灯りを灯さず 見えないままで その日 その日を振り付ける 無力な手足を振り続ける どこにも行けないまま 地球の丸さを知る わたしの両目…

眠れない犬

眠れない脳の温度 マーブル色の夜の部屋 本の雪崩とと愚れた寝間着達 毛布に包まり スヌーピーのランタンを灯す 仕留められない明日に飛びつく アルマジロがバンジョーを弾いている 冬と春の間で血のケトルが沸騰する 同じ夜のなさに怯え 同じような夜に這い…

視聴会犬

白黒映画とメルヘンが空の梯子から降りてくる 二匹の星と目が合う葡萄のステージで 秘密の箱の鍵を解いて 薔薇の穴の名を叫ぶ 土の匂いに溢れ出す微生物 死を恐れる欲望が目を覚ます 地平線では昼間の太陽が踊りだす 滑らかな涙で錆びた車輪が回りだす 梶の…

人と犬

時を押しのけ 時に押しのけられ 底に埋まった古い本 誰よりも言葉を失くしたい 誰よりも言葉を打ち消したい 上手を消したい 下手を消したい 普通を消したい これを書いたら死んでもいいと思えること そんなことだけ書けばいい 死ぬこととは違う死に方 長く穏…

文章犬

文章は誕生 文章は表彰 文章は国王 文章は濫用 文章は表情 文章は抑揚 文章は浴用 文章は6畳 文章は2錠 文章は窮状 文章は動揺 文章は童謡 文章は同様 文章は試乗 文章は常用 文章は無情 文章は戦場 文章は洗浄 文章は愛情 文章の登場 文章の途上 文章の土壌…

脱走犬

脱皮の痛み 砂糖味のしない朝 絞首刑台の赤いタオル 無尽蔵に吠え続けるスピーカー 歌謡ロック後ヒップホップ 書けない私に容赦ないバースの雨 コンバースにかけた防水スプレー 言葉の檻 身体の檻 自我の檻 出たい 出したい 液体を仕舞わない 人体を縛らない…

犬の目覚め

見栄と上着を脱ぎ捨てる ひとりの夜にひとりの湯に浸かる 今は一本調子の歌と言葉に実が成る日まで 犬という管を何度も鳴らす 犬という牙を何度も研ぐ 散歩をするように白紙に足跡を残す 珈琲を飲むように舌と喉に灯す カーテン越しに血を沸かす 真っ白な太…

小説は

小説は焼け跡である 小説は師である 小説は料理である 小説は身体の関係である 小説は衝動である 小説は空気を抜き忘れた真空パックである 小説は振り付けである 小説は不死身の儚さである 小説は地図である 小説はこじつけである 小説は我儘である 小説は孤…

空白犬

効き目の足りない言葉を日記に隠す 猛毒なら 劇薬なら 誰かにすぐに見せられる 風の吹かない部屋 身も心も無風状態 最早足せない 最早引けない 知ってる言葉を忘れてしまった 仮面に頼り 箱庭に頼り 言葉に縋る 蛇口を捻る 生えることも 揺れることもない 花…

虹の犬

いい瞬間だけを閉じ込める 虹色の生地に閉じ込め焼き菓子にする 不安は蟻が担いで持って行く 理解の中に滲む汗 冷静の灼熱 不安は犬で 無心は猿だ 否認の低音 他人の和音 理屈に浸かったたくわん 名前だけ新しい駅 夜でも朝でもない無人島のにおい 尽きても…

犬電話

黒い食堂と無色の心臓 血を測る温度計は壊れた洞穴からの声 それは毛むくじゃらの声 チカチカ点滅する声 空気の薄い森へ招待する声 砂時計を逆さまにする声 信じる声 信じられない声 今も振り絞れない声 脱ぎ捨てられない声 命を縫った熊の額に落とした涙が…

途上犬

血まみれのまま伸びた夜に横たわる 明日と昨日が今日の真ん中で渋滞している 顔の上のハムエッグ肉汁を垂らしてる 鈍い痛みは上にも下にも振り切れない 部屋の出口 会話の糸口 見たことのない入り口 全て封鎖されたまま 味のない南インドのお茶1杯以外に水分…

犬言葉

新しい言葉 ランボオの言葉 河豚の毒の言葉 塩胡椒だけの言葉 衣擦れを塞ぐ言葉 掃除機をかける言葉 おしぼりと焙じ茶の言葉 マカロニとベーコンの言葉 土鍋で炊いた言葉 日の出と野良猫の言葉 土竜と糠床の言葉 虹と小鳥の言葉 運命をロックで飲む言葉 野生…

薄犬

部屋が壁際だけになってしまったみたいだ。今のわたしには上も下もよく見えない。身動きなんて取れない。抱えている口にできない問題で頭がいっぱいというか、頭の中はそれ以外ない。犯罪を犯したわけでもないのに執行を待つ死刑囚のような気分から逃れられ…