犬クスリ

泥濘の重みを両足に履いて 雲ひとつない空の下 銀行へ野暮用 裏通りにも堅気だらけ 途中の駅で 気力なく 階段選べず 昼間に街を彷徨く理由を偽り 目的を終える 茶店でいつもの珈琲 いつもの顔と馬鹿話 生存方法 伊集院光 巻き起こる春風 脳の草むらなびくク…

犬に疲れて

古びた毛布 高さの合わない枕 焼けたカーテン 発光するゴミ袋 沈没した部屋 不動の空 回転する街角 休まないスピーカー 唸るベース 解すドラム 奪われたギター 脳を揺らす鍵盤 手紙を読む犬 呼吸に疲れた リボンに疲れた 缶詰になりたい 眠っていたい 睡眠を…

溺死犬

死ぬよりはマシだと思った時 わたしは逃げた 仕事から逃げた 電車から逃げた 人から逃げた 死ぬよりはマシだと思った時 レモンサワーをエナジードリンクで割った それを真っ黒な魔法瓶に詰めた 死ぬよりはマシだと思った時 鯖缶にカレー粉をかけた 名古屋名…

INU's gonna be alright

騒がしい頭 星に焼き付いた肉球 投げやりが刺さった静脈 言葉をマドラーで溶かそう 長距離バス 誰もいない椅子 静岡おでん 古い喫茶店 ジャーマンドッグ 薔薇とポトス お揃いのパジャマ お揃いの方言 生卵のち交差点 実況中継の手引き 「ジャンルに囚われな…

狂犬

無名の名 約束の死 目的はなく 今も傷だらけ 誕生 蒸発 誕生 消滅 繰り返し無になる浴槽の思いつき 全てを忘れさせる火の魔法

香りの咆哮

住処のない香り 見えない香り 届かない香り 変わりゆく香り 迎え入れる香り マグカップに住む波紋 阻まれ吠える香り 珈琲色の咆哮 チリソースの舞 卵の掛け布団 伝わらず伝わることを願う香り 飲み干すことで抱きとめる香り 窓を開ければ登り狂う香り wi-fi…

犬絵画

いつでも どこにでも 外へも 中へも 地球の子宮へ 人類の大地へ 付け根の鼓動で 時の皺を刻み 色とりどりの血を滲ませる 黄金の息を忍ばせて 見えないスカーフを手にする 時間を賭けて バケツのインクに筆を捻じ入れ 空に浮かんだクジを引く 音の兵隊は 列か…

犬写真

写真は墓場じゃなかった 写真は過去だと思っていた 切り取られた一瞬で 蘇った血液で動くタイムマシーン シャッターを鳴らして チョッパーで切り刻んで 時のお刺身 それが写真

染め犬

神様達を染めた 白い恋人達を染めた 黒い毛根達は燃えた 色素は景色に流れていった 白黒映画に隠れ家を見つけた 青白い肌とビニール袋とバター こんがりと色づく頭上のパン 懐かしい色を全て隠して 美しい色を全て騙して 失った朝と携帯電話 動物園の中で育…

囚犬イヌ公

黄色い目の雨が降る夜 眼球気球地球全てを担う雨のゼリー 不穏も希望もデニーズのパフェの中 蟻地獄のトラウマを傘の柄にして 下町と呼ばれる大地を踏み均す 明日は来ないが 昨日も来ない 壊れることのない心臓が 毒と独でわたしを支配する 肥やしのような位…

紅い犬

偶然の皮に包まれ 積年の骨を包みし 我が生肉の臓音 球体を転がし 同類へ繋ぐことできず 空気を震わすことできず 寡黙な本能は諦めて眠る 言葉を刻んで差し出して 祓える限りの鈍みを取り除き 滲み残る穢れを残したままで白皿へ盛る 言葉を配列する 透明にな…

花と犬

何一つ出来なかった 約束を一つ一つを破り捨てた 鰹節を血液で煮た ミイラを湯船に浸からせた 最期のお化粧と若さを全て水に流した 明日が来ない宇宙船に乗る ボロボロの犬と白い熊 光る猫を買いに兎小屋を訪ねた 地球を一周する長さの蛇と 寿命の短い不死鳥…