子守唄犬

海に落ちた雨はカエルの鳴き声

雷はポメラニアンの武者震い

砂嵐はゴダールの歌声

百合の花は白いワンピース

花の中にあの人が見える

カーキのカーディガン

赤いニット帽

ポケットのついたTシャツ

心理学のテキスト

水溶性の欲望

冥王星のザクロ

土星のデヴィッドボウイ

金星のカプセルトイ

ここは24世紀の24時

 

 

八方塞がり犬

ちゃんと言いたいことがある

伝わるかどうか別にして

思っていることの全て

今日があなたの一生

明日もあなたの一生

生まれ変わったことに気づかないだけ

今夜宇宙を卒業します

その後は何処にも行く宛がない

お説教がファストフードで

愛してるがオーダーメイド

興味がある人なら

もう他人じゃない

今夜黒い文字で電話をかけて

あなたの声が首筋に巻かれるよ

 

眠れない夜

起きれない朝

休めない昼

どこにもいけないままを

ほっとくことがどこにでも行けること

今いる場所も人も信じなくていい

犬の歴史を信じる

犬の人生を信じる

そろそろラーメンは出来上がる

紅生姜と黒胡椒をたっぷりかけたら

どんぶりもまた空っぽな宇宙

息をとめて行き止まりに向き合った

自分をとめてあなたと向き合う

今夜猫は仲間になる

握手犬

 

住んでいる街と仲良くなれる気がしなかった

コンビニのおにぎりと仲良くなれる気がしなかった

水筒にいれたお茶と仲良くなれる気がしなかった

リポビタンDには喧嘩腰だった

 

みんなとはさっき和解した

今までごめん

目を合わせらなくてごめん

出会ってくれてありがとう

砂時計の砂が落ちた分だけあなたたちを

愛したい

視線を合わせて

握手して

抱きしめて

僕は旅に出る

特急に乗って旅に出る

古くさいけど音楽と一緒に旅に出る

今はまだ終点で降りない

旅の途中を放り出して

新しい旅に出る

ソフトカバー 革ジャン

サンドイッチ 暖かいダージリン

人間の友達も連れて

 

我が名は犬

誰かの言葉が赤信号になりは

誰かの言葉が行き止まりになる

誰かの言葉が金縛りになる

誰かの言葉が関節技になる

誰かの言葉で動けなくなる

本の言葉

メールの言葉

SNSの言葉

必要なことばかり

だけどそれで

動けなくなることばかり

今は他人じゃない言葉

僕の言葉を

僕の種を

土壌に撒く

土と野菜と花の言葉

折れそうに咲く

か細く咲く

枯れたまま咲く

咲かす

血と汗のサーカス

ひとりのサーカス団

ライオン

マシンガン

薔薇の花

鎖で縛れ

鎖で絞れ

街でいちばん自由な不自由になれ

新しい犬

沈黙と抑揚を乗せて

雨の日の観覧車は回る

全てのことが今から始まる

眠りでは泳げない夢を泳ぐ

欠けた賽の目の終わらない回転

鳴り止まない心臓

ソファーはひっくり返る

卓袱台は壊れ損ねる

天井は全力疾走する

ピザとオリーブは空に舞う

饂飩は天の川になる

洞窟にはタンポポが咲く

僕らに過去はない

僕らにカーテンコールはない

いつかの僕はいつかの言葉と一緒に滅びゆく

昨日という化けの皮を剥がす

今日という赤子として産まれ出す

白紙のページは残ってる

言葉は這いずり立ち上がる

真っさらな血のキャンプファイアで踊ろう

星と大地の鼓動で話そう

白い犬

 

「空っぽな詩集のままでいい」

「ガラガラのライブハウスのままでいい」

「友達には無理に声をかけない」

そう言いながら目覚めた白い犬はカラスの溜まり場から去っていった

 

その夜の犬は自家製の潤滑油で動いていた

自家製の潤滑油で回っていた

リュックの中には谷川俊太郎

地下鉄のザジ』が潜んでいた

いつになく口と滑らかだった

言葉には艶があった

ハーブ酒とソーダ水を嗜んでいた

 

「酒は酔うためではなく 味わうためにある」

「居心地の良い場所を探すより ズレたまま生きていたい」

「錆びつかないための 刺激と七色の風が欲しい」

 

そう言いながら白い犬は家に帰っていった

下北犬

 

今日はいい天気

今日は暖かい

今日は明るい人生

公園とコンビニの横を経由して緑の街へ

通りには魚と積み木とTシャツ達

古い映画館と中華料理屋の行列

人生というデスマッチの模型

サングラス カセットテープ

ビンテージシャツ 古本

飲まなかったビール 黒い犬

今日は歩き疲れて

今日は話疲れて

見つからぬトイレと

忘れた空腹

吠える山羊

泣く赤子

顔と身体が交差する摩擦

堕落に焦がれる

海が苺になっていく

空がキャラメル食っている

イタリアの夜が降ってくる

ロサンゼルスの秋も連れてくる

一瞬と永遠も連れてくる