がらくた

友達がいなくなった。跡形もなくいなくなった。友達の集印帳が紙切れになった。友達のアルペジオが廊下で鳴った。友達を一袋頬張った。友達をミキサーにかけた。友達に電話をかけた。友達が過去になった。友達がシャツの模様になった。友達が跡形もなく溶け出した。友達がとろろになった。友達が肉を切る音になった。友達が肉を着た。友達が空洞になった。友達の肉詰めができた。友達のカーテンが閉じた。友達が目を覚ました。友達が去った。友達が帰り道になった。友達が返り血を浴びた。友達が破けた。友達が割れた。友達を捏ねた。友達を濾した。友達を詰めた。友達を焼いた。友達が咲く。友達が枯れる。友達が瞼に手錠をかけた。目錠をかけた。友達が黄色と白い花になる。友達がウイッグになる。友達に泊まる。友達を打つ。友達をひん剥く。友達が顔を出す。友達が続く。友達がはじまる。友達が終わる。友達を植えた。肥沃な友達が広がる。友達の色が落ちる。友達を修理する。友達のホコリをはらった。友達にクリームを塗り込んだ。友達に砂糖を溶かした。友達を釜で煮た。有刺友達鉄線に絡まった。友達線の各駅停車に乗った。友達は干からびた。友達は夜逃げした。友達が削げ落ちた。友達のパームツリーは枯れた。友達のカントリーマアムは味がなくなった。友達の液晶が割れた。友達の血の気が引いた。友達の電気ケトルが壊れた。友達の名刺、友達の本への八つ当たりを堪える。心のなかで全力で放り投げる。友達の銅像がどんどんできていく。友達にスカウトされる、友達に解雇される。友達の刀が首を痛くないように切った。シルク製の友達を手洗いした。友達のダルメシアン色の液を飲んだ。友達が終わる。友達のエンドロール。友達のカーテンコール。友達のコレクトコール。友達に値段がつく。やめろ、友達の値札を剥がす。友達を焚く。友達を鳴らす。友達を高笑う。友達を膨らます。友達には戻れない。人間にも戻れない。妖怪にも戻れない。赤子にも戻れない。生まれる前には戻れない。開封前には戻れない。


これ自分で割ったやつ?


これは玄関に落として割った方です。

 

俺は、今孤独になった。

 



 


精神の未熟さの発露。そのせいで、人が遠ざかる。(仕事を)解雇された日と同じように、大事なはずのポールスミスのシャツのボタンを思いっきり引きちぎった。「長く着るための服なら大事にしろよ」品川区から2時間かけて自宅に帰った。窓が開かなくなった部屋で、気持ちの昂ぶりを沈めようとして、紅茶にラム酒を多めに入れて飲む。眠気が襲い、活動は停止した。自分の感情を手懐けられそうにないなら、せめて長文を書け。稚拙なのはわかっている。解決しようもないだろう。あちこちにある壁にインクをぶちまけろ。他の偉大な?人も、そこからはじめていたかもしれない。あてにならなくても、想像のために脳味噌を使った。文章なら呼吸の乱れが伝わらない。青ざめて引きつって縮んだバケモノの顔が隠せるからいい。この文章は、昔書いた文章よりも酷い。生き抜いてきたのに、何故、後退しているんだ。自分を痛めつけていることは、それと関係あるのだろうか。萎縮しているのだろうか。こんな退屈な文章を読むことは、お断りしたい。食欲を満たして感情を誤魔化してドツボにハマるよりはましだ。浸水して、藻掻くことを避けてきたのだから。特技など何もない。頭はすこぶる悪い。握力は低い。握力がなくても生きてはいけたけど。泉谷しげるの握力が低かったことを忘れられない。都合のいい記憶で自分を守っている。感覚だけで書く。記憶の中のオレンジシュースが美味しかったのなら、それを信じればいい。小学生の時、あまりに頭が悪かった。自分が成長の遅い人間なのだと言語化することはできず。ただ、諦めていた。運動神経もない。走ることも不得意だったはずなのに、たまたま50メートル走で1位を取ってから何故か速くなった。その日からどちらかと言えば脚が速い方の人に変わった。勘違いを起こしにいく。高校の時は持久走で学年2位の結果が出せた。体育の授業以外では練習をしなかったけれど、記録を縮めようと、縮めることができるかもしれないと、あの時は信じていた。疲労で顔がグチャグチャになって「気持ち悪い」と興味のない相手に言われても、走っていた。いいのか悪いのか判断できないけれど、頭も今より悪かったけれど、多少は真っ直ぐだったのかもしれない。。この文章にはディテールが足りない。説明不足。論旨はどこにもない。精神状態が影響しているのか。何が言いたいのかよくわからない。自分の頭で考えろ。欠伸をするな。屈伸でもしてろ。珈琲を飲むな。安全な水を飲め。インターネットを開くな。自分にないものを恨むな。やらずにわかったふりをするな。早食いをするな。歯を磨くのを忘れることを繰り返すな。

 

 

 

 

 

 

挿絵はあってもいい。重さと言ったら重さに失礼だ。失礼だなんて失礼に失礼だ。小説が人質だよ。小説はこんにゃくとところてんのいいとこどりだよ。小説が書きたいんだ、小説の条件をおしえてくれ。小説は文字。小説は小さな道路。小説は日常の虹。喉が渇く。動揺を隠すために水を飲み。誤魔化している、自分を認める。紙の子供。液晶から紙が透けて見える。瞳孔が開く、真珠が開く。土が開く、インスタントコーヒーが開く。指先から均一にジュースが流れる。アドレナリンが足りない。アドレナリンは忍者の赤い影。赤い切絵。黄色い血を経験する。手相のイースト菌。猫は手の甲がパン、人は手の平がパン。あぐらをかいて、お茶を飲んでいる。行動が座り込んでいる。視線が、眼球が移動している、クチバシがはえた花柄のティーカップを見つめている。爪楊枝とココアの粉末が並んでいる。

 


俺は小説になりたいんだよ。俺は小説に変身したいんだよ。小説家は嘘つきだけど、小説は本当なんだ。血が滴るような小説に憧れるんだよ。小説の条件は、名乗ることだよ。俺は小説だって言うことだよ。それだけだよ。小説なんて文字が並んでいるだけだよ。かたちなんてあったためしがないよ。小説職人なんていないよ。回る小説も、回らない小説もないよ。小説は紙切れじゃないよ、紙束だよ。小説は無意識だよ。小説は脳震盪だよ。小説は新しい病気だよ。小説は新しい罪だよ。素晴らしいよ。小説は搾りたてだよ。小説を濾してくれよ。小説を見学させてくれよ。小説の里親を募集するよ。小説は自家発電するよ。それが小説の証明だよ。小説は絹ごしだよ。小説は動物性の豆腐だよ。小説は奇跡だよ。小説のための休暇がいるよ。小説のための勇気がいるよ。小説のためのピアノがいるよ。我武者羅な小説がいいよ。小説だけはゴールがない方がいいよ。小説はフライングした方がいいよ。小説は下着に気をつかったほうがいいよ。小説は換気がだいじだよ。今、窓をあけるよ。ヴェートーベンの生涯は洗濯機の奥に消えたよ。スヌーピーは縁側で寝ているよ。ドストエフスキーは身体をY字にして寝ているよ。風は吹いているものだっていつ知ったんだよ。この風はいいのか、わるいのかわからないよ。小説だってそうだよ、読めたって何だかよくわからないよ。理由のある小説は怖いよ。食物何かもういいっていいながら、105円のメロンパンを歩きながら食べたよ。俺は嘘つきだよ。うそつきだと名乗っても聞くやつは居ないよ。

小説を書くのに本なんか読んじゃダメだ。本なんて読んだら、脳味噌の皮がマトモになりすぎちゃうから。読んで安心しちゃダメだよ。書かないと。書くためにあるのが小説なんだ。

無理だよ、俺には小説なんて書けない。小説は王冠が似合いすぎる。俺は河を泳ぐ小蝿だよ。小説の命は野良猫と同じくらい短いよ。小説は雨だよ。小説は月でも太陽でもない。プロットってなんだよ。登場人物ってなんだよ。家族ってなんだよ。ペットってなんだよ。生活ってなんだよ。理由ってなんだよ。筋ってなんだよ。目が見えるってなんだよ。服を着るってなんだよ。肉を切るってなんだよ。骨ってオマエ、だれなんだよ。連鎖ってなんだよ。孤立ってなんだよ。しらすってなんだよ。透明ってなんだよ。そんなに小さいくせに体重が図れるってなんだよ。俺が書いたことを残しておけるって何なんだよ。面白いってなんだよ。つまらないってなんだよ。なんで何もかもわかってちゃうんだよ。器が小さいんだよ。除名が短いんだよ。息が詰まるよ。説明すんなよ小説を。小説なんて読みたくないよ。過去の小説は上手すぎる。小気味よい音を流れて小説が流れてゆく。2リットルの水すら飲みきれない俺には小説が読めない。情景ってなんだ。俺は小説を書いているよ。部屋に臀部を乗せて小説を書いているよ。マグカップで歯を磨きたいよ。小説は投げ出しちゃダメだよ。小説は永遠だよ。小説は不死だよ。小説は電波時計だよ。小説の一つ一つは血が滲んでいるのに、小説全体の河は澄んでいるよ。ニジマスもコイもまだ生きているよ。1人だよ。水を飲んで咽たってひとりだよ。心臓がちゃんと痛んだって同じだよ。恥かしいよ。生きていることが。生きていることの給湯温度の温さが嫌いだよ。爪の再生が嫌いだよ。食欲が嫌いだよ。風船が嫌いだよ。俺はもう駄目だよ。病気だなんて当然すぎるよ。春雨なんてもう毒すぎるよ。生きているのって古い遊園地だよ。錆びた乗り物だよ。落ち着くなよ。

 

部屋がなくなっていく。人生ではじめて集中する。雑音のない、黒ですらない暗闇が見えてきた。俺は両腕を十字に置いて太ももを叩くよ。